2012年9月1日開設 /2013年 8月 19日更新
大正期から今日までの100年間の表現には、作家の代表作にして、時代の代表作とでも言うものがあります。それを、大正ロマンの旗手とされる竹久夢二を起点にしてたどろうとしています。
100年のmasterpeice としての表現、それらについて覚書きをします。(2012.8.27)
[top、都市と郊外、詩歌、散文、絵画、思想のページを書いているところです。 talks、blogもご参照ください。 2013.7.12]
竹久夢二〔1884(明治17)年~1934(昭和9)年〕が、現代のさまざまな表現分野のルーツであり、多彩な分野で活躍した才人だったということは、言われて来ていることです。画家としてデザイナーとしての評価は、首肯されることですが、その分野に収まらない仕事が多くあることも事実です。
現代から見て、明治末から大正・昭和初期においてそれぞれの文化の源流が生まれ、分野として確立したという説があります。そう見るなら、多くの分野の源流において夢二は活躍したことになります。ただ、彼は、諷刺画も漫画も描いているけれども漫画家にはならなかった人で、小さな版画としての草画、抒情画を提唱したけれども、創作版画にはすすまなかった人です。絵画小説は書いたけれども、小説家を名乗ることはありませんでした。さらに言えば、絵と文芸の相関が強い人で、絵には賛を、文には挿絵を添えることを常としていました。表紙絵と詩を担当した歌曲の楽譜などの仕事も特筆されます。夢二は、童謡、童話も書いた詩人で、子供や女性、青春期の人々にむけての表現も特有のものでした。彼が活躍した明治末から大正、昭和初期こそ、詩歌の時代であり、童心の時代であり、古謡採取の時代であり、歌曲の時代でした。
これらの多彩な文化にアプローチするために、ひとつの糸口を探すなら、当時隆盛した出版文化などのマスメディアと夢二が深く関わったことが注視されます。自著を中心としたブックデザインの仕事は、夢二の中核になっているのです。
さらに、時代の背景にあった思想に注目して、夢二代表詩「宵待草」をリベラルな気運が高まる時代に生み出された歌謡とみる観点があります。背景としての時代文化や先行する詩人、あるいは、夢二を受容したであろう作家にも目を向けることは、何らかのヒントになることでしょう。(注1)
そして、大正期のリベラリズムは、マスメディアをとおしてより多くの人々が、多様な文化を享受することにより進展したと考えられます。表現の自由という概念がありますが、それは思想的なことを含めて作者の恣意を作品にあらわす自由というだけではなく、分野を越えて新たな様式を生み、既成の様式から開放される自由にも通じます。
そういった自由な表現とメディアが生成してきた近代を、芸術表現が渦巻いた100年として夢二を起点に巡ってみます。それが、夢二とは何なのかについての解答に近づくことと、表現というもの、文化というもののあり方を探ることになるのではないかと、ささやかな期待を持ちながら…。
(2012.9.1)
筆者の略歴 ⇒大正100年データ
竹久夢二の代表的作品については、ページを作成中です。⇒ exhibition 竹久夢二 -大正の自由人-
注1 『「宵待草」ノート 竹久夢二と大正リベラルズ』 (拙著) はる書房 2011 ⇒ Book review
なお、当サイトでは、夢二作品につきましては、主に次の図書より引用させて頂きます。
『夢二抄 山の巻 絵と画論』 (拙著) グラフィック社 1997
『夢二抄 川の巻 絵と文芸』 (拙著) グラフィック社 1997